glottis text?




ケテルブルクの夕暮れは早い。




慣れない気候。




降り続く雪。







[ 最初のうそ。さいごの約束。]











ピオニー陛下の厚意で招待された世界有数の高級ホテルに向かう途中。
女性陣は口々に「寒い」と言いながら、
案内役のジェイドを先頭にして、いつもより少し足早になっている。



そんなペースから外れて、一番後ろを歩いていたルークが
俺の上着の袖をくいと引張った。



「『ゆきがっせん』って何だ?」

「ん?……そうか、お前雪とは無縁だもんな」

「答えになってねぇよ」

「はは、悪い。『雪合戦』ってのはな…」




木の枝に積もった雪を両手で掬い、丸く握ってルークに持たせる。
しばらく手の中の雪玉を不審げに見つめると、
説明を促すように瞳を上げてきた。



「その雪玉を相手にぶつけて遊ぶんだ」

「さみぃーつめてぇー楽しくねぇ!」

「そうでもないぞ?やり始めたら結構マジになるし」




雪玉をぽいっと投げ、冷たくなった手を擦り合わせる。
そんなルークを横目に見て、ふと疑問が浮かんだ。




「ところで、急にそんなこと聞くなんてどうした?」


そもそも、どこで『雪合戦』を知ったのか…。



「ん〜〜〜?さっき、向こうにいた娘が言ってたから‥」

「したいのか?雪合戦」

「なっ!?ちっげぇよ!!」

「でも、今日はもう暗いからまた明日な」

「だからっ!違うつってんだろ!!//」


からかうように頭を撫でてやると、唇を尖らせたまま
ぺしっと手を払われる。
そんなやり取りをしているうちに気づけばホテルに到着し、
俺たちはチェックインを済ませた。








さすが陛下のご紹介。

一人一部屋。
だだっ広いスウィートルームのこれまただだっ広いベッドに横になって
俺は天井を見上げた。




こんな部屋…‥落ち着かない。



「使用人生活が染み付いてんなぁ」




ぼそっと洩らした独り言に、笑ってしまった。
貴族だった過去なんて、遠すぎて忘れてしまいそうだ。



それも‥良いかもしれない。

今は、今はこのまま……





―――パタン…



控えめにドアを閉める音がした。

隣の部屋は‥ルークだ……










しんしんと静かに積もっていく雪。

吐く息は白く、いくら着込んでも凍えるように寒い。




ルーク・・・・。





早く行かないと…
あっという間に見失ってしまいそうだ。



何故か…そう感じた。





足跡は、奥の広場へと続いていた。

広場の真ん中に、堂堂と置かれた石像。
そのすぐ前に、ルークはこちらに背を向けて立っていた。




「眠れないのか?」


びくっと…肩が揺れたのが解った。



長い付き合いの産物か…
こちらを向かずして、俺の存在を認識していた。



「ミュウの寝言がうるさくてさ!うぜーっつーのっ」


振り返ったルークはカラカラと笑って頭をかく。



「そうか」




本当は知ってる。



眠れない理由も。




嘘をつくときのクセも。

そうやって……
ムリして笑わないでくれ、ルーク。





そんな姿を視ていられなくて
腰を曲げて雪を掬い、軽く握ってルークにぶつけた。



「ぅわっ…!何すんだよ!?」

「油断大敵だぞ」

「くそッ!」



悔しそうに眉間に皺を寄せると、同じように雪玉を作る。

ぶんっと思い切り投げて来たそれを、俺はひょいとかわす。


「てめ!避けるなっつの!」

「あたると負けだからなぁ」



ムキになって2投目を繰り出してきた。
同じ様にかわしたら、もう一つ投げられていたらしい雪玉を顔面に受けた。



「ぶっ!」

「ざまーみろ!」

「やったなぁ?!」


仕返しだ、と雪玉を投げつける。





冷たい・・そんなもの感じなかった。



寒い…そんな事も忘れた。



すべては、お前が…。







「はぁっ、はッ・・はぁ〜!疲れたッ!」



膝を折って、肩で息をする。



軽く汗ばむくらい、俺たちは雪玉を投げ合っていた。
我ながら呆れる。




呼吸を整えて、少し意地悪な質問をした。



「・・やっぱりしたかったんだろ、雪合戦」

「全然ッ!」


あまりの即答に、笑わずにはいられない。



「まあ、そーゆーことにしとくか。」

「だから違うっつーのに!」

「でも、楽しかっただろ?」

「べっにィー?」

「ははッ、素直じゃねぇなぁ」



いつものルークらしい反応。




心が落ち着く…








ケテルブルクの広場には、俺たちの声の他に
何も音はなかった。


音が、この世界に吸い込まれているような気がした。
ただ静かに、時が過ぎていく。






「なんか久しぶりだな‥こんな風に2人でいるの…」




どこか頼りない声で、ルークがそう呟いた。




「そういやそうだな…この旅が始まってからずっとみんな一緒だったし」

「‥屋敷にいた頃は退屈でしょーがなかったけど、そんなんも…ちょっと懐かしいよ」



その言葉が、少し嬉しかった。



独占欲。


とでも言うのだろうか…?



あの頃みたいに…
あの頃には戻れないと知っていても…

望まずにはいられない。






お前はどう思うかな……






解っていて、知らないフリをした。


最低で……残酷な提案。




「この旅が終わったら…2人でどっか遊びに行くか」


ぴくりと指先に力が入った。

ホント、嘘つくのが下手なヤツだよ…お前は。





――けれど…・・。






「‥うん……」



空を見上げ、瞳を閉じる。


その仕草の意味を、俺は知っている。




ルークが導き出した“答え”……。



「うん、俺サーカス行きてぇ」

「おぉ、イイじゃないか・・行こうぜ」

「へへ…楽しみだな」









いつだったか、ナタリアに言われた。


『あなたはルークに甘すぎますすわ』





違う。



俺が‥…

俺がルークに『甘えてもらいたい』だけなんだ。


もっと、もっともっともっと…
俺を必要としてくれよ、ルーク。

独りで全部背負わないでくれ‥受け止めてやるから。




だから、どうか…‥



「絶対、行こう…約束だ」

「うん……やくそく‥」





どうか…この『願い』が消えないように。




「……よし!ホテルに戻るぞ。ご主人様に風邪引かせちゃ使用人失格だからな」

「よくゆーぜ!」


そっぽを向いて悪態づくルークの前に、左手を差し出す。


「ほら。」

「な、なんだよ‥」

「冷たいだろ、手。」


ぐいと無理やり手を取って、寒さで紅くなった指先を握ってやる。


「おい!恥ずいっつーの!//」

「でも温かいだろ?」

「まぁ‥な…//」

「素直でよろしい」




氷のように冷えた手は、俺の熱を奪っていく。
そんなことすら、嬉しいんだ。




なぁ、ルーク…。




こっそり小指で『指きり』なんて…


そんな事しても笑わないでくれるか?











ケテルブルクの雪は止むことを知らない。





だから俺は。

融けては積るこの雪にかけて…



降り止まない雪と同じだけ。

ちいさな約束を、たくさん積らせてやるんだ……。











“お前”を諦めない。






ガイ様、独りよがりみたいで何か…orz


最終決戦前とか、そんなイメージで書いてたんですけど
明らかに時間軸がおかしいので。
ガイがルークの『さいご』を悟った辺りだと思ってくださ…。
それでもズレてるよ…とか言わない気にしないすいません。



ケテルブルクの夜の屋外とか…
凍死必至だと思いますので
2人は『ファブレ家専属の服飾師特製コート』
でも着ていた事にして下さい。









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